ダン・ピアソン氏の講演に思う

自然から学ぶ

 さすがピアソン氏の講演内容は素晴らしかった。当然のことを当然でないように観察し、当然でないものを当然のごとく作品にしていくという印象を持ちました。ガーデンデザイナーに限ったことではなく建築家、芸術家、科学者にしても秀でた人は自然や現象を興味深く熱心に観察している話を聞きます。ノーベル賞を受賞した田中さんもそんなことを言っていましたね。
 講演の中で共感したのは、まず自然から学べということです。現地の環境で育つ植物の特性を知り、それをどう活用するかを思案されています。たとえば路傍の雑草にも目がいくそうで、我々凡人には及びもつきません。また、一見ガーデニングと関係なさそうな彫刻、建造物などからも様々なことを受け止めイメージされ実践されているそうです。私たちがたとえそうしたことを考えたとしても、残念ながら少数意見として世の中では取り上げてくれず挫折することが多いでしょう。自分の信念に基づき成し遂げる意志を持つこと、それが「こだわり」であるような気がします。
 当日、スライドを交えてのセミナーであり、参加者の視線がそこに集中しました。素人の私にとって2時間の講演から学んだことは、ほんの断片的な事柄に過ぎませんが、自然や人工物の持つ様々な要素をよく観察しインスピレーションを働かせることの大切さを再認識。その要素には

テクスチャー (Texture)

 物体表面の手触り感と直訳しては物足りない気もしますが、それが景色全体であったり、一片の石であったりします。たとえば遠くにみえる山並みを観察すると、木々の高さや色合いの差、陰影によって微妙な凹凸と質感があり、人工的なものにはない美しさがあります。
 北海道には秋の紅葉は勿論、「みどり」一色となる夏、白く染まった冬があり、多彩なテクスチャーを居ながらにして体験できます。氏は講演の翌日、イサム・ノグチで有名なモエレ沼公園(札幌)や彫刻家・ 安田侃の作品があるアルテピアッツァ美唄を訪ねられ、イギリスにはない白い大地で何か新しい発見をされたのではないでしょうか。はっきりとした四季のなかで暮らす私たちは恵まれているという自覚を持ち、そこからもっと何かをつかみ取る努力をしなければと思います。

夏のテクスチャー秋のテクスチャー冬のテクスチャー

色彩 (Color)

 視覚的に最も訴える力がある「色」についても話がありました。みどりのなかに点在する赤いポピーの花のように、本来なら強烈な関係にある補色を取り入れることも好きだそうです。レベルの高い創造力を保つためにはタブー視せず自由な発想が必要であること示唆されていたのでしょうか。
 講演終了後、ある病院の庭園設計を担当されている方が、患者さんのリハビリを目的とした庭の色使いをどうしたらよいかと質問。それに対して「難しい質問ですね。症状の重さの違う患者さんがいるのだから、私ならそれぞれに相応しい庭を別々の場所に作るでしょうね。」と回答されていました。視覚的に刺激のある色は患者さんにとって諸刃の剣。思いがけない?質問にも自然体で対応されていたのは印象的です。

庭の色彩例1庭の色彩例2

形、姿 (Form)

 庭園材料としての植物、特に樹木の場合はそれぞれの特性を生かして自然に近い形で伸ばしたり、刈り込むなどの成形をします。氏はそれらを偏って使うのではなく、ごく普通に玉状に刈り込んだ樹木を配置したり、ランダムな形や大きさに刈り込んだヨーロッパイチイ(Taxus baccata)やボックスウッド(Buxus sempervirens)を利用している作品例の紹介がありました。理屈では当然とも言えるのでしょうが、実際に使いこなすのは難しそうです。
 もうひとつ興味深かったことは、あまりにも自然的過ぎないように作庭したことの証に人工的なオブジェをさりげなく据えてくるそうです。日本流にいうと「お洒落」ということでしょうか。このほかに

ドラマ (Drama)
履歴(History)

などについても触れられていたような気がしますが、残念ながら聞き漏らしてしまいましたので省略いたします。