街路樹の話

自然形とは

 街路樹に限らず限られた空間のなかで樹木を自然の姿を保ちながら育てるのは不可能に近い。それは個人の庭でも例外ではありません。その場に応じた手入れをすることで私たちに都合が良く、耐用年数が延びることになります。これは人間中心に考えざるを得ない都市や個人所有のスペースのなかで植物を育てるときやむを得ないことです。そうした制限のある環境のなかでより健全に育てられるかの工夫が必要と思います。よくハサミを入れるな、自然のままで育てよといった意見がありますがそれは植物の寿命ではなく耐用年数を縮める結果を招くことに成りかねません。
 人間が手を加えない植物の自然な姿や「自然形」とはどんな姿をしているのでしょう。種類によっても異なりますが私たちは意外と正確には答えられないのです。例えば下の写真左にあるイチイですが理想的な姿になっていますが人間が手を加えた自然モドキの姿です。また右の広葉樹は常時強風にさらされているためこのような形になっていて、あきらかに穏やかな環境で育った姿とは異なりますがこれも自然な形のひとつなのです。しかし私たちは図鑑に載っている均整のとれた前者のような形を「自然形」と考えています。

イチイの自然形風雪に耐えている樹木

剪定しながら育てたイチイの「自然形」(左)と風雪に耐えている沿岸の広葉樹

 一方で、後者のように私たちの望む理想的な姿を許してくれない場合があります。こうした厳しい環境の場所に理想的な形の樹木を植えたとしてもいずれその形が崩れ、その自然環境に見合った姿になることは容易に想像できます。同じように都市公園の樹木や街路樹も社会的な環境から一定の制約を受けています。単に成長するための空間だけではなく、住民や利用者の安全性確保、最低限それを遂行するための予算などにより一定の手を加えざるを得ません。反面、そうした環境を意識しながらできるだけ画一的、事務的な管理とならない工夫も大切になります。私たちの都合で植えるのですから将来を見越してその場所に相応しい種類を選定し、首尾一貫した育成管理を行わなければ、命ある植物に申し訳がたちません。