色彩のコミュニケーション

第2話 植物の色彩

 カラーサンプルをみると、とても赤紫、赤、桃色といった系統色の表現だけではイメージを伝えることができません。そこで赤い系統色の花として最も普及し、よく知られているシバザクラを中心に実例を交えてお話します。カラーサンプル(colcom_1.pdf)の下段に品種別の写真と品種名を、最下段には群植した各品種を遠方より眺めたときの全体的な色彩(以下イメージカラーと称します)を掲載しましたので参考にしてください。

「赤い」シバザクラは何色?

 マゼンタのような赤紫系に始まり、レッド(赤)、スカーレット(緋色)、ピーチブロッサム(桃色)、ルビー(茜色)、ローズ(薔薇色)などを含め赤と呼んでいる人がいます。園芸品種が多く存在するもの、花色について個体差のあるものに対しては適切な表現とはいえません。通常「赤い」シバザクラといえば品種名「スカーレット・フレイム」を指すようですが、人によっては「オータムローズ」をそう呼んでいる場合があります。あくまでも白に対して赤いといった相対的な表現として使っているのでしょう。いずれにしても混乱のもとになります。品種名を明記するのが最も明快なのですが、もしそれがはっきりしないのならより詳しい色名で伝えてほしいものです。「赤」といわれ「スカーレットフレイム」を納品したところ、その色じゃないといわれ、全部返品された話があります。お気の毒としか言いようがありません。

クラッカージャック

ピンクは桃色じゃない

 特に日本人は英語のピンク (pink) を桃色だと勘違いしている人が多いのではと思います。日本工業規格 (JIS Z 8102) の慣用色名表にも掲載されていますが、本来ピンクは俗的な表現をすればやや肌色がかった桃色より淡い色で日本では鴇色(有名な鳥のトキに由来する)と言います。ナデシコ (Dianthus) 属の俗称として使われている「ピンク」はこの色に由来しています。桃の花の色に由来する桃色は英語でピーチブロッサムといい、まったく異なる色を示します。

 北海道の代表的な花木エゾヤマザクラは他の桜より花の色が濃く、地元の人々から大変慕われている郷土樹木なのですが、実際の色はピンクよりはるかに淡い桜色と比べてもまだ淡いくらいです。にもかかわらずそう感じないのは雪から開放されたばかりの時期に開花すること、それと蕾の色が濃いからでしょうか。

名は体を表さず

 シバザクラのなかで最もよく普及している園芸品種は先の「スカーレットフレイム」と「オータムローズ」でしょう。一般的に前者を「赤いシバザクラ」、後者を「ピンクのシバザクラ」と呼んでいます。その是非はともかくとして、実は園芸品種名のなかにある色名が実際の花色と異なる例なのです。スカーレット色とは橙色おびた赤を示すのに対し、実際の花色はマゼンタ(赤紫系)色です。また後者は名前にあるローズではなく桃色に近い色をしています。ときとして品種改良に携わった人の色彩に対する願望が命名に影響したのではと考えたくなります。

二つの色を遠くから見ると

 シバザクラの「多摩の流れ」は、花弁の周辺が白っぽい覆輪模様の変わり種です。どちらかといえばマニアックな人たちに好まれそうで、遠くから眺めては模様が解らないので群植する意味がないように思われがちです。しかし遠くからはイメージカラーが桃色や桜色ではなく肌色帯びたピンク(鴇色)になるから不思議です。

 紫色帯びたシバザクラの園芸品種も幾つかありますが、ここではあえて花色にムラのある種類を掲載しました。近くで見るとそのことで見苦しく感じますが、遠くからでは全体がラベンダー色(淡い紫系の色)として映ります。

 いずれも群植する場合は花弁のディテールにとらわれる必要はないと思います。私たちがシバザクラを植える際、通常採用する配色(赤系、桃色、白のおきまりパターン)を離れ、上記二種でレイアウトしてみてはいかがでしょうか。従来とは異なり、神秘的で落ちついた雰囲気を演出してくれることと思います。


次のPDF文書には植物に関する赤系の色見本を掲載しています。
ただし、皆さんのパソコン環境やプリンターによって正確に
色調が再現されない場合があります。あらかじめご了承下さい。

赤系の植物色見本 (PDF)